12月26日

 このくらいの時期になると毎年財布の中身が乏しくなる。ぬくいのはコタツの熱だけだ。
 十二月二十六日。
 昨日が給料日だった連中は良いかもしれないが、私は十日払い。すでに十五日もの日を消費している。年末は何かとお金が飛んでいくことが多いが、お正月になれば親戚の集まりに顔を出し、すでに瀕死状態の財布は甥っ子や姪っ子たちにお年玉をあげて力尽きるだろう。
 あげないという選択肢はないのだ。なにせあの子たちはタチが悪い。決してお金を要求することなく、ただきらきらとした瞳で、これを買った次はあれを買うんだそのためにお小遣いを貯めているんだ――と健気な調子で話すのだ。
 善良な大人としてはそこでぽんとお札を出して「じゃあその足しにでもしなさいよ」と言う必要がある。――少なくともあの場ではそれが暗黙のルールとなっているような気さえしてくる。
 つか視線が痛いですほんっとーに。
 同僚には「嫌なら行かなきゃいいじゃん」と言われるが、そうすると後から電話がかかってきて「どうして来なかったのか」と質問攻めだ。あれは滅入る。
 とにかく、顔を出さないという選択肢はない。
 至極つまらない結論に達したところで、私は何気なくテレビの電源を入れた。そして落ちるブレーカー。あぁ、電子レンジもつけてたんだっけ。そりゃオーバーだ。
 私はブレーカーを上げにいこうと席を立って――ふと面倒になってそのまま外へ出た。財布と音楽プレーヤーだけを持って繰り出したご近所は静まり返っていて、夜の風の音さえ聞こえてきそうで。静寂が無性に怖くなって私はイヤホンを耳に突っ込んだ。流れてくる音楽を適当に聞き流しつつあてのない散歩を続ける。
 頭の中にあるのは、どうやってお正月のお年玉攻防を乗り切るかということだった。そういえばまだ大掃除してないよ、私。ゴミ出すのもただじゃないし、それ以外にも予定されている出費はまだたくさんある。
 ――うう、それにしても寒い。コートは着ているが、そのほかの防寒具はいっさい身に着けていない。そろそろ帰ろうかと思った私の視界に飛び込んできたのは燦然と輝く自動販売機様。
 たったか駆け寄って品選び。ちょうど好きなメーカーの自販だったみたいだ。ここはオーソドックスに缶コーヒーでも買っておこう。
 かじかむ手で持っていた財布を開く。
 あんぐりと口を開けた財布に負けず劣らず、私の口も開きっ放しになっていたに違いない。
 中身は百十円だった。あぁ……そういえば下ろしてなかった。どうやら気づかぬうちに財布は瀕死を通り越して死亡していたらしい。
 イヤホンから流れてくる歌――『傷ついても立ち向かって、躓いても立ち上がって(*)……』――このフレーズだけが妙に耳に残っていた。

(*)『ONE』(妖精帝國)

UP:2009/12/26