携帯電話

 振られた。
 その事実を受け止めるのに、それほど時間はいらなかった。同じサークルの先輩。リサーチした結果、彼女も好きな人もいないということだったけど、私じゃあの人の心は射止められなかったようだ。サークル内でも特に親しい間柄というわけじゃなかったから、当然と言えば当然の結果なんだけど。
「はぁー……」
 ……なんだけど、やっぱり気分はさいあく。
 ベッドの上に寝転んで、ただケータイをいじる。指先は自然と彼の名前を求めてボタンを押すけれど、メールの受信ボックスに並ぶのは無機質なメールアドレスのみ。
『もう個人的に連絡することもしないから……電話帳から削除してくれるかな』
 彼から言われた言葉が、今更になってずっしりとのしかかってくる。サークルを辞める気はないけど、明日から気まずいなぁー。どのツラさげて挨拶しようかしらね。昨日の今日で普通は無理だわ、さすがの私も。
 なんで中途半端なタイミングで告白しちゃったんだろ。別に先輩も四年じゃないんだから、焦る必要もなかったわ。もっとこう、学祭後とか進級とか卒業とか、ねぇ? せめて何かの節目にすりゃ良かったのよ私も。
「あぁもう、ほんとバカ……」
 思わず声に出して自分を罵る。
 ああは言われたけど、連絡を取ろうと思えば取れるこの状況が、また何とも言いがたい期待と煩悶を呼び起こすわけだ。さっきから心臓がむずむずする。不整脈のように変な脈の打ち方をし続ける心臓にだんだんイライラが募ってきて、私はあの人のメールを「チェック」する。そして押すのは、「削除」。ついカッとなってやってしまったわ、後悔するかもしれないけど……ちょっとスッキリした。
 まだ未練はたらたらだけど、うん、忘れよう。スッパリ振られたんだから。私が入る余地はないんだ。
 少しだけ――本当に少しだけ枕を濡らして、今晩は眠りにつく。


 ――とは言ってもねぇ。自分のことながら驚くくらい「好き」だった気持ちが消えないわけで。あの人が居れば自然と目線が行くし、話してる声は気になるし、事務的な連絡事項でも声をかけられれば心臓が高鳴るわけでね?
 あれから半年。
 受信ボックスには毎日のように迷惑メールが届くけど、私はメアドを変えられずにいた。このアドレスを変えてしまったら、先輩とのつながりが途絶えてしまいそうで怖い。私のデータなんてもう電話帳から削除されちゃってるかもしれないけど、それでも私はその頼りない希望に縋っていた。……希望ってか幻想よね。ううん、妄想かしら?
 とにかく、アドレスは変えない。未練がなくなるまで。
 サークルのたまり場、遠くで笑う先輩を見つめる。笑顔――それが私に向けられたものではないとしても――自然と笑みが零れてくるのは、まだ好きな証拠。
 ……私の恋に、黎明はまだ訪れそうにない。

UP:2010/09/25