病葉の季節に

 病葉が頬を掠めた。大した風も吹いていないのに力なく散っていくそれを何とはなしに拾い上げて、また風に乗せた。ふわりと浮かび上がることもなく、ひらひら、と地面に吸い寄せられていく。
 夏の終わりとは言え、まだまだ気温も高く晴天が続く毎日。赤だの黄色だのはまだ不釣合いに思えた。
「あーあ、どうしてだろう……」
 付き合っていた彼と、別れた。それも半年くらいで。私は第一印象は良いらしいんだけど、付き合っていくうちに「どうも違う」となるらしい。そんなこと言われても、困るわ。
 私はもっと相手を知りたいって思う。良いところも悪いところも、全部。でも彼はそうじゃなかった、ただそれだけのことだと……言い聞かせるの難しい。好きだったのにな。
 青々とした葉に、ぽつんと存在する病葉。秋を待たずして、枯れてしまった葉っぱ。
 私の思いはまるで病葉のよう、と……詩的なことを考えてしまう。ああ、今はきっとセンチメンタルっていう精神なのかもしれない。
 成就を待たずして、私の恋は終わった。もっとこの想いを温めてみたかった。じんわりと涙が滲んできて、私はそれをぬぐうこともせず歩き続ける。
『僕と付き合ってください』
 そういう彼の声は緊張で震えていた。オーケーしたときの笑顔が忘れられない。
『今度、二人で遊びにいきましょう』
 初デートのお誘いは、何故か敬語だった。会ったときに指摘したら、恥ずかしそうに俯いてたっけ。
『楽しかったね、また行こう』
 帰宅後のメールでは敬語が消えていた。一日でだいぶ打ち解けてくれたんだなぁと私も楽しくなったのをよく覚えてる。
『ごめん、もう無理かも』
 最後のメールは実にシンプルだった。直接会って話もしたけど、後腐れなく別れてきた。これ以上一緒に居ても、お互いに辛いだけだもんね。
 別に、勝手に好きになって、嫌いになるなんて! と怒ったりはしない。未来なんて誰にも分からないんだから、仕方ないんだ。彼と私の道は進むうち、徐々に徐々にずれてしまっただけなのよ。ただちょっと、寂しいとは思うけど……
 ――あー、ダメだ、いよいよ泣きそう。
 零れそうな涙を拭う。生温かい風さえも、瞳に沁みた。こういうときは、アレよ。友達にメールしかないわ。
『振られちゃった。また振り出しです』
 寂しいわ、なんて侘しいメールなの? それでも送信ボタンを押す私は、よほど他人に飢えていたのかもしれない。
 返信はすぐに来た。
『気休めしか言えないけど、元気出して! 男なんて星の数ほど居るんだから、また出会いはあるよ』
『そうだよね。ありがとう、私また頑張るよ』
 友達の励ましに、笑みが零れた。
 うん、そうだよね。男の子なんて星の数ほど居るよね。運命の王子様とは言わないけど、ピンと来る人はこれから先だって居るはずよ。
 あーあ、もしこの背に翼があったなら、その運命の星を探しに舞い上がるのに。
 なんてバカなことを考えながら、青々とした葉を仰ぎ見た。

UP:2008/08/23