【感想】金のロベリア③

def_imp

金のロベリアとは、両片思いをテーマとしたアンソロジーです。
加えて「強い女性」「滅び」が縛りのテーマとなっています。
※両片思いとは、思い合っていても理由がありなかなか結ばれない状態のことです


以上、公式より引用。
コミティアで頒布されたアンソロジーです。

ブログなんで、感想は基本ネタバレを気にしないスタンスです。

金のロベリア感想①
金のロベリア感想②


混沌の系譜

神、そして12と来たらすぐ思い浮かぶのはオリュンポス十二神で、神話的な話なのかなと思って読んでいたのですが、違いましたね。吸血鬼でした。
幼なじみたちは、少しずつ身勝手で、残酷で、その小さなすれ違いが最後の悲劇にストレートにたどり着いたとき、あぁ、と目を覆いたくなりました。三人が持つ形の違う「傲慢さ」は人間誰しもが持ちえるもので、それが知らず知らず他人をえぐることはままあると思います。そんな生々しさを凝縮して投げつけられた感に、私はSAN値直葬です。最後までやり遂げたエイネスティはすごい。タガニスさんは、深呼吸でもして、少し落ち着きましょう。そんな怖い顔で迫ってはいけません。
ときに、観光客や店員はきっと薔薇を必要としない普通の人間ですよね。最後まで読んでそもそも主人公たちは本当に「人間」なんだろうか、と。「私は人間でいたい」と言いますが、谷の中では人間として成り立っているだけで、在り方としてはエイネスティたちもとうの昔に「逸脱」してるのではないかと考えてしまいます。彼らの生活圏だけで見ればタガニスひとりが逸脱者ですが、ラストで雑踏に消えていったエイネスティは「村の外」で「逸脱者」として生きているということになりますよね。生きるために「薔薇が必要」なのと「血が必要」なのは、本質的な部分はそう変わらないと思ってしまいました。

方舟の城のローゼ

いわしさんだなぁ(唐突)
彼らの性質的な観点から見ると、どちらかと言うとキーリたち天啓院の面々が主人公タイプですよね。ですが、「悪しき暴虐の王を斃し、連れ去られた恋人を助ける」という筋書きの傍らで展開されるアレクシスとローゼの触れ合いは萌え……なんとも痛ましい限りです。
絶対服従ゆえにただひとつの感情すら伝えられず、伝えられたとしても「うそ」になってしまう、あるいは「うそ」だと思われてしまう。物理的な距離は非常に近しいのに、心は遠く離れているこの究極のすれ違いに、ため息を禁じえません。きっとローゼを手に入れたくて、がむしゃらに王になったのではないかな。彼女自身も、先王がいる限りアレクシスの味方たりえないと言っていますし。自分に決して逆らわない存在というのは、ある意味、見せる面すべてが「偽り」なのかもしれません。アレクシスがローゼに反抗的な態度を取るように命じたのは、ローゼが思っているような「退屈しのぎ」ではなく、無意識のうちに心のつながりを求めていたからなのではないかと、思いました。決して衝突のない関わりあいというのは、ひどく不健全なものです。
ローゼの感情は付与されたものではなく、本来彼女に備わっていたものだったのですね。「幸せになってほしかった」というあくまでも他人本位な彼女の願いに、とても深い愛情を感じました。化け物を受け入れてくれる場所はない、と言いますが、自由を得て主に真に反抗することで、ローゼは最高の居場所を手に入れることができたのではないでしょうか。きっとアレクシスも、それがたとえ炎に巻かれるまでの短い間だとしても、「王」ではなくただひとりの少年として、過ごせたのではないかと思いました。

檻の中のグレーテル

はこにーわーのーと聴こえてきたのを光の速さで軌道修正。
SFは苦手ながらもこうした素材は大好きで、さらにモチーフに童話が使われているのも新鮮でした。作中で語られる正義を振りかざした悪意は現代社会でも特に大きな闇となっている部分で、読んでいてとても胸が苦しくなりました。匿名性と大義名分によって肥大化した「正義」に殺された人も数知れず。他人を叩くことで、というよりそんなことでしか優越感を得られない人間の、なんと薄っぺらいことでしょうか。カレンさんはそうした悪意に晒されながらも、とても芯の強い人で、ヘンゼルが惚れるのも無理ないわけです。
過去の凄惨な事件の真実が明かされたとき、人間の「身勝手さ」への手痛いしっぺ返しを食らった自業自得な部分があるのも否めないと思いました。結局はEOS計画もバベルの塔だったのではないかなと。ヘンゼルはグレーテルに自分を重ねて自らを閉ざしてしまいますが、彼が長じているのは理性的な部分。カレンの叫びに悔しさや悲しみを覚えつつも、その激情に身を任せて衝動的な振る舞いをしなかったことからも、カレンが訴えたようにグレーテルと同じ道を辿ることはないのでしょう。それどころか用意周到に自分がぬけ出す準備を進めているあたり、さすがです。
ヘンゼルは少し粘着質なところがある様子ですが、振り回されながらも地球で楽しくやっていくんだろうな、と微笑ましくなりました。もう彼は魔女に囚われたヘンゼルではなく、エティエンヌなのですから。
数十年後、ヘンゼルの不在に気づいた研究所の騒ぎもちらりと覗き見してみたいですね。


エアンダルのひめごと

あいまさんだなぁ。というのも、覆面作家企画6の提出作品を彷彿とさせるんですよね。嫁いだ先で少し不自由な暮らしをしていて、そしてひどく冷静で理性的な女性。あいまさんだなぁ(二回目)
ままならない立場に、感情。それをどう表現したらいいのかお互いに分からず、微妙な距離感に落ち着いている感じがまた、もどかしいです。ディアーインさんはきっとシフレソアが大好きなんだけど、自分の言葉のせいでシフレソアが得るはずだったものを奪ってしまったという強い罪悪感があって。でも小国の第三王子たるディアーインが彼女を得ることができたのは「偽りの幸福の娘」だったからだと私は思うので、おそらく複雑な心境でしょうね。彼女が周囲から大切にされる幸福の娘であれば、大国がどんな手を使ってでも手中に収めたでしょうし。彼女の人生を「台無し」にした自分が、果たして愛を語っていいものか、そんなことを考えていそうだなぁと感じました。それがたまに溢れてしまうのが、冒頭の問答であり、書庫の所作であり、海での泣き顔なのかもしれません。あの手のチャラさを装うキャラはたいてい自分の本心を曝け出したりはしませんから、真意のほどは分かりませんが、そうだと嬉しいなという私の願望が混じっています。最後、シフレソアが「私に会いたかったのかもしれない」と良い意味で自惚れる瞬間が素敵ですね。ずっと遠ざけるような、自分の気持ちを隠すような、ある種の自己暗示のようにディアーインはひどい男だと思い込もうとしていたシフレソアが彼の気持ちに寄り添った瞬間ですからね。今後の二人の行く末は苦労も多そうですが、本音でぶつかれる日もそう遠い未来ではないのではないか、そんな風に思いました。




『金のロベリア』はこれにて読了です。
ありがとうございました。

コメントを投稿する

メールアドレスが公開されることはありません。